海外の暗号小説
[シ行 作品]
作品名 16歳のセアラが挑んだ世界最強の暗号
著者名 セアラ・フラナリー、デヴィッド・フラナリー        (訳:亀井よし子)
発行日:2001.8.25
出版社:日本放送出版協会
形式:四六版
目次
1 子ども時代
2 数学の旅
3 大事なのは残りもの
4 「法」の計算
5 一方通行
6 コンテスト
7 数学のあと、コンテストの余波
ストーリーの概要
 1999年、数学とスポーツを愛するアイルランドの16歳が開発した暗号は、専門家たちの度肝を抜いた。天才出現という評価に取材陣が押し寄せ、特許出願によって少女が巨万の富を手にするのでは、という憶測が流れる。思わぬ展開に戸惑いながらも、暗号開発を徹底的に楽しみ、その魅力を伝えようと奮闘するセアラの青春体験記。(扉から)
 彼女の数学・暗号の先生であり、父親であるデイヴィッド・フラナリーとの共著の形をとっている。母親もかなり較正に協力しているようだ。

数学と言うと、やたらに難しい定理や記号が多く多くの人にとって避けて通る学問かもしれないが、高度の数学の知識がなくても、暗号を理解しやすいように記述に工夫が凝らされている。そこを飛ばして読んでも良いようにもなっている。

 前段に「暗号とは内容にあまり関係のないと思われるパズル」が出てくるが、これらパズルを解く発想の一つ一つに数学の難問を解く鍵が隠されているの。そしてその解決方法や考え方が16歳の少女に暗号学を理解する知識・技能を植えつけていく。
 暗号や数学について十分理解できない部分があるとしても、このパズルを自ら解く事はそれなりに面白いと思う。

 天才的な素質と数学者の父親を持ち、アイルランドと言う自主的な教育制度に恵まれた環境において、磨かれたのだと思う。
 数学上・暗号上の問題発見とその解決の取り組み方はその記述から学ぶことが多い。
 また、父親の学校での授業の取り組み方は日本の教育・授業からは考えられないほど前向きで、父親と言うより教育者・指導者とし、「若い才能の芽を出すため、特に何を助言し、何を自ら考えさせるのか」を示唆しつつ教育する面は素晴らしい。
暗号について
 アイルランドの16歳の少女、セアラ・フラナリーが、科学自由研究コンテストをきっかけとして、新しい暗号システムを見つけた経緯を述べたノンフィクション・自叙伝ではあるが、内容的には暗号理論に区分しても良いほど、暗号の基礎的なことが記述されている。
 「16歳の少女が,RSA暗号を理解し、それに匹敵するあるいはそれ以上の暗号法を開発、見出す」なんて自らの能力を基準にすると信じられないことである。

 昔は主として外交や軍隊で重要な情報等を秘匿するために主要された暗号は、インターネット社会では全てのデータを秘匿する、常に優れた暗号化アルゴリズムの開発の重要性が高まっている。
 暗号化の鍵を隠し、復号化の鍵を公開する方法が公開鍵暗号であり、中でも3人の開発者の頭文字を並べたRSA暗号は、世界標準の暗号になっている。
 セアラが考えたCP(ケイリー=パーサー)アルゴリズムは、行列の乗法の非可換性を利用したもので、RSA法と同じ性質をもつが累乗計算をしないため、処理効率が高くスピードが速い。また、暗号としての安全性にも優れていると言う。(ここら辺はあまり詳しくは書かれていない。コンテストでの優勝に係わる部分が多い。)
 いずれにしろ、コンテストで優勝し、暗号界で認知され、世界中から特許出願やベンチャー起業などの話が持ち込まれたという。しかし、セアラはそれらを全て断ったと言う。(今、この暗号はどのように活用されているのであろうか?)

 この暗号システムの基礎となる「剰余数についての整数論」や、「行列演算についての代数学」など暗号に係わる数学を、分かりやすく平易な言葉で解説し、RSA暗号や旧来の暗号についてもその概要解説している。

 【セアラが紹介している日記の一部】(その一部)
 ゆっくりと始めた―行列を使って有限体と有限可換環を試す―ランダム行列を生成するためのルーティンをつくる―行列アルゴリズム「ヒル暗号」の勉強―逆行列を見つけるための独自のルーティンをつくる―初めての暗号化・複合化ルーティンを作成。ただし、一度に9文字のみ―次の段階で、行列のリストに適応できるルーティンをつくる・・・・・・・
inserted by FC2 system