日本の暗号小説
作者名 佐々木 敏
作品名 ゲノムの方舟
発行日:2000.10.31
出版社:徳間書店
形式:四六判
目次
第1章 プロローグ -- アメリカのいちばん大切なもの
第1章 ジュネーブの蠢動
第2章 デンバーの天空
第3章 欧州の恐慌
第4章 世界の変節
第5章 キューバの緊張
第6章 ユダのいない晩餐
第7章 ボストンの誘拐
第8章 ジュネーブの深層
第9章 ニューヨークの死角
第10章 最後の晩餐
エピローグ -- ユダはいたのか?

ストーリーの概要
西暦2003年8月、スイス・ジュネーブのWHO(世界保健機関)本部ビルで開かれていた特別総会を「緑の戦士」と称するテロリスト集団が襲撃、WHOの各国代表を人質に、国際社会に遺伝子工学研究の一切の中止を要求した。
犯人たちが細菌・ウィルス兵器で武装していると知ったスイス政府は、アメリカ政府に生物兵器テロを専門とする特殊部隊の派遣をひそかに要請した。
アメリカ政府は、白人のスミス大統領の釆配で陸軍細菌戦特殊部隊「ホワイトベレー」をスイスにいちばん近いドイツの米軍基地に派遣して待機させていた。しかし、大統領が訪日からの帰途、大統領専用機エアフォースワンの機内から黒人のキング国防長官へ電話中に、突如、一切の交信が途絶えた。
キングは軍事非常事態とみなして副大統領以下、主要な閣僚と軍の幹部を国家安全保障会議に召集。白人のローズ副大統領の大統領代行就任手続きが未了のため、キングがホワイトハウスを指揮することとなった。
キングの決断で、ホワイトベレーがWHO本部に突入し、犯人全員を射殺し人質を解放した。
その頃、デンバーを中心としてコロラド州では、原因不明の奇妙な日本ブームが起きていた。細菌やウィルスの増殖(細胞分裂)のスピードと寿命を変える研究で世界から注目されつつあった日本人遺伝学者、井坂博史は、マサチューセッツ工科大学(MIT)教授として日本からボストンに移住する直前、全米遺伝学会に出席するためデンバー行きの飛行機に乗っていた…。
ヒトゲノムを巡る陰謀劇の裏側。衝撃の近未来国際サスペンス。

代表的な書評

* 手に汗握る攻防:週刊東洋経済;2000.11.11号

(前略)ヒトゲノムの遺伝子操作をベースにした国際政治小説。メインテーマは21世紀の大問題である人口爆発対策に遺伝子操作を使おうとする米国の財閥グループと、知らず知らずにその国際的な謀略に巻き込まれる日本人遺伝学者井坂博史の手に汗握る攻防だ。
 同時に舞台背景として、最先端の遺伝子問題だけでなく、世界の軍事、政治、教育、宗教、人種などの問題が米国中心に縦横無尽に展開されていく。タイトルは大洪水から逃げる「ノアの方舟」になぞらえたもので、途上国の人口爆発から自分たちだけが生き延びようとする財閥グループを表現したものだ。560ページとやや大部だが、著者の筆力はそれを感じさせない。

* 知識と分析には舌を巻く:Venture Club;2001.1号

テログループ「緑の戦士」がジュネーブWHOビルを占拠、アメリカは「ホワイトベレー」を派遣してこれを制した。しかし、人質となったアフリカ代表団は次々と奇病で急死する。同時に中国華南地方でも上咽頭ガンの患者が発生する。緑の戦士を送り込んだテロ国家、カルタゴ、内戦状態に陥ったキューバが複雑にからむ。
(中略)今、話題のゲノム技術を根底に置いて物語はスリリングに展開する。主人公で遺伝子学の権威である井坂博史の説明に、ゲノムへの理解を深めるのもよし、アメリカの支配階級のものの考え方を学ぶのもまたよし、当然、純粋な国際冒険小説としても十分な水準にある。
 著者の国際政治、遺伝子技術、IT技術の知識と分析には舌を巻く。

*「可能性を秘めた、禁断の扉を開いた」--朝日新聞;2000.11.27

*「絵空事でない恐ろしさを感じる」--東京新聞;2000.11.19

暗号について
・ DNA暗号に関する基本的事項
・ 米国大統領、軍関係の機密事項伝達に関わる暗号の使用
・ モールス符号の活用:今は使用されなくなったモールス符号を暗号といて上手く活用している。
  (米海軍のベテランは良く知っているが、他軍の将校あるいは最近の一般人はモールス符合を知らない。)
・ 各種の情報のやり取りに暗号化ということを自然に取り入れている。(具体的な暗号の中身はないが)
・ 巻末註に暗号関係の解説あり
 「ヒトゲノム計画」「公開鍵暗号」等
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