日本の暗号小説
作者名 江戸川 乱歩
作品名 屋根裏の散歩者      (「屋根裏の散歩者」所収)
初出:T14.8;新青年・夏季増刊号

発行日:S52.11.6
出版社:講談社
形式:文庫

(その他多数出版)
目次
「なし」(短編)
ストーリーの概要
怠惰な日常を送っている郷田三郎は、下宿している自分の部屋の押入れの天井から屋根裏に入り、天井裏を這い回り、下宿人の生活や秘密を覗き見しては悦に入る。
そして、ある日、とうとう重大な犯罪誘惑に駆られてしまう。 それは屋根裏から下の部屋に寝ている者の口へ毒薬を垂らして殺すという計画で、殺す相手の持っているモルヒネを盗み、様々な試行錯誤の末、ついに成功するの。
完全犯罪と思われた郷田は、知り合いの名探偵・明智小五郎が下宿に訪問に来た時から思いもかけない方向に向かい、……。


昭和4年「あの作、この作」から乱歩の回想
「これを書く気になったのは、天井の節穴という着想と、押入れの中で寝る奇妙な男の生活を結びつけることに気がついた時からであった。妙な男とは私自身のことで、昔24、5歳の折、三重県鳥羽の造船所に勤めていて、またしても会社勤めが嫌気がさし、独身寮合宿所の自分の部屋の部屋の押入れの中に隠れていて、会社から呼びに来ても気づかれぬように、襖をしめきって、その真っ暗な中で、壁にアインザムカイトなんて落書きをして、まじまじと寝転んでいたものだが、そんな私みたいな男が、病が嵩じて、押入れから天井裏へと隠れ場所を移転して、天井裏は広いのだから、そこで散歩でもしたら、さぞ面白かろうと、いう風に私自身の経験と天井の節穴のトリックを、段々接近させて行ったわけである。(以下略)
暗号について
ストーリーに関わる暗号の話はない。
郷田の人物像を描くために書かれた最初の部分に、いたずらで犯罪を行う場面がありそこに出てくる。

・犯罪者が同類と通信するためでもあるかのように、白墨でその辺の壁に矢の印を書いて廻る。
・妙な暗号文を書いた紙切れを――それはいつも恐ろしい殺人に関する事柄などを認めてあるのです――公園のベンチの板のあいだへはさんでおいて、木蔭に隠れて、誰かがそれを発見するのを待ち構えている。
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