暗号戦史
「テ行 作品」
作品名 D暗号書の行方を追って
著者名 山岡 昇
発行日:1962.11.16
出版社:論文(出版物ではない)
形式:自筆(ワープロ)
目次
1 はじめに 2 暗号被教育 3 南総電へ 4 疑問 5 図書館、テレビ 6 換字機械(パープル暗号) 7 アイゼンハワーとパープル暗号 8 レーダーの発明 9 D暗号書(海軍暗号書D) 10 ミッドウェー海戦 11 米軍、零戦を入手 12 陸軍暗号手の逃亡 13 トラック島 14 連合艦隊司令部の移転と海軍中将福留繁 15 海軍暗号の非常時対策 16 暗号被解読の謎 17 栗田艦隊の遁走
18 四航軍の末路 19 大将への夢(牟田口廉也) 20 ブラックチェンバー 21 陸軍の努力 22 責任・天皇制廃止 23 靖国神社 24 終結
ストーリーの概要
著者は、文面から旧陸軍において暗号に携わってこられた将校の一人で、戦後、特に海軍の暗号措置に疑問を抱き、この論文を書かれたものと思われる。

著者は、旧陸軍参謀本部通信課長であり、戦後陸上自衛隊の通信に影響力のあった仲野好雄氏宛てにこの論文を送付した模様。
論文送付の趣旨に
「さて敗戦の一因に海軍暗号書の担当者が出鱈目だったことを知りました。故小沢英夫中佐、鮫島素直大佐などは厖大な暗号書に満足し、それに酔って思考力を失ったように思えます。大きく作りさえしたら良いとは限らないのに、18年4月に変えた新乱数表全く出鱈目も甚だしいです。米国からの返還資料がなかったら、空威張りが通っていただろうけど今頃は恩給を受けながら呵呵大笑いしている事でしょう。海軍でD暗号を持った鑑が沈んだら、敵に取られたら、その時の対策が全くなかったなんて不思議です。その点、陸軍は無限乱数と特別計算はようやりましたね〜」」とある。

「はじめにから」

海軍は格好良かった。しかし、ハワイ攻撃後は、病身のようにひ弱になってお話にならなくなった。戦う海軍ではなく、見せ掛けの海軍になった。
「日本は、我々より一日の長ある化学兵器、莫大な物資の前に一籌を輸した。」とされているが、次の三つの理由から、これに通信の秘匿手段である「暗号」を加えたい。
1 外務、海軍両省の換字機械は、開戦前の日独伊三国軍事同盟締結日以来、軍事外交の極秘機密情報を敵に提供し続けた。
2 潜水艦数隻が、敵の勢力圏の浅海で沈んだのに、暗号担当者は、暗号書が持ち出されはしないかと心配することなく、「絶対に大丈夫」と回答し、更新の努力を放棄した。
3 移転に伴い、持参の暗号書や作戦計画書を奪取されたのに、事故扱いも改廃もせず放置した。
外務省や防衛庁等の暗号に携る方々は、この拙文を一笑に付して再び好ましくない轍を踏むことのないよう、国益を守るため最善の対処をして欲しい。
暗号について

2 暗号被教育 
 討伐隊の暗号手当時、着信作業をしていたら、准尉が「出鱈目するな!」と怒鳴った。私が、引き算の差を書かず、暗号書を見ないで作業紙に文字を書いていたからか。准尉は、作業紙と暗号書を取り上げ暗号作業を始めたが、直ぐに放り捨てるようにして無言で去った。舐めては見たが、苦虫を噛み潰した味だったのだろう。

3 南総電へ 
 高等司令部における暗号作業は、困難だった。特別計算と高度の暗号書?

4 疑問 
 山本五十六の遭難は、暗号解読による迎撃だった。(現地の邦字新聞:フィリピン)・・・これでも海軍は否定したのか?

6 換字機械(パープル暗号) 
 米側は、フリードマンによりパープルの模造機を完成。米側に情報が筒抜け。

7 アイゼンハワーとパープル暗号 
 ベルリン駐在の日本大使館付武官の「ドイツに西壁」視察報告を傍受、ノルマンディー作戦を有利に

9 D暗号書(海軍暗号書D) 
 暗号の仕組みの解説。暗号書は沈んだ潜水艦から奪取された。海軍には非常時対策がない。

12 陸軍暗号手の逃亡 
 仏印北部で第21師団の暗号手(上等兵)が、好待遇を期待して重慶へ逃亡。的の暗号が強化され解読不能となる。

14 連合艦隊司令部の移転と海軍中将福留繁 
 所謂「海軍乙事件」:作戦計画書と暗号書を奪取された責任者の処分なく、むしろ出世。戦後雑誌に論文掲載は不貞。

15 海軍暗号の非常時対策 ・・・特になし。無神経。
 ・仲野陸軍大佐が、無限乱数の採用を薦めたが応じなかった。
 ・広大な暗号区:同一の暗号が最高司令部から末端まで同じ。
 ・捕獲された暗号書を分析すると、特殊な用紙やインクの使用は見られない。

16 暗号被解読の謎 
 米軍は、更新したばかりの暗号を何故解読?・・・伊2潜は、新旧両方の暗号書を保有・・・米軍に両方取られた。

20 ブラックチェンバー 
 高位高官が暗号の価値に無頓着。強度と運用。

21 陸軍の努力 
 ・暗号区の縮小、限定:乱数票+特別計算表あるいは無限乱数表+非算術加減法
 ・戦後、米軍情報将校から陸軍暗号は「jコンプリート パーフェクト」と言われた。

24 終結
 ・米ロシュフォートに勲章:彼は「解読」ではなく、捕獲した暗号書による「翻訳」だ!
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