海外の暗号小説
第100話 ロシア人スパイの使用した「秘密の暗号技術」は秘密インク H23.3.4
ニューズウィークの2010.7.2の記事
「米で逮捕された露スパイ団は玩具店でも買える「見えないインク」を使って交信していた!?」

 米捜査当局は6月28日、アメリカ国内で活動していたロシアのスパイ集団11人を逮捕した。彼らはどうやら、そのスパイ活動に古臭い手法を使っていたようだ。米司法省の告訴状によると、ある容疑者は別の容疑者にメッセージを「見えない状態にして」送っていたという。

 スパイが、玩具店で売っているのと同じような「見えないインク」を使うとでもいうのだろうか?

 大いにあり得る話だ。玩具メーカーが見えないインクを作る方法は主に3つあり、すべてスパイも活用している手法だ。
 最も知られている方法は、レモン果汁など透明に近い酸性物質を使って紙に書くというもの。そのままでは何が書かれているか見えないが、ドライヤーなどで熱を加えると書いた文字が浮き上がってくる。

 2つ目の方法は、化学反応を利用するやり方。例えば、チモールフタレインという物質は青色のインクを作るのに使われるが、このインクはすぐに透明になる。だが、これをアルカリ性の高い(ph9.3以上)物質に浸すと、再び文字が浮かび上がる。

 3つ目は、紫外線にさらすと文字が現れる液体を使う方法だ。これに使われる液体の例としては、牛乳や精液のような有機物質から合成洗剤のような蛍光性化学物質まで幅広い。

デジタル写真にテキストを埋め込み

 CIA(米中央情報局)はアメリカのスパイも見えないインクを使うとしながらも、どのタイプのインクを使っているかは明らかにしていない。とはいえ、米政府が見えないインクの製造技術に革命でも起こさない限り、現在CIAで使われているインクは玩具店に置いてあるものと大して変わらないだろう。

 98年、CIAは見えないインクの製造方法を記した第1次大戦時の文書の公開を拒んだ。同様にして、「機密インクの技術マニュアル」と題された45年時の文書も非公開のままだ。

 アメリカの研究者たちは、他国で使用されている技術をいくつか探り当ててきた。例えば旧東ドイツの秘密警察シュタージは、複写に似た手法を用いていた。2枚の白紙の間に化学物質(シュウ酸セリウム)を含んだ紙を1枚挟み、一番上の紙にメッセージを書くと真ん中の紙の化学物質が一番下の紙に移される。この一番下の紙を硫酸マンガンと過酸化水素の溶液に浸すと、文字がオレンジ色に浮かび上がる。

 見えないインクが始めて使われたのはおそらく17世紀で、アメリカでは独立戦争や南北戦争、第二次大戦でも使用された。だがその後もっと高度な暗号技術が普及するにつれ、見えないインクは廃れていった。

 高度な暗号技術としては、例えば文字を元の大きさの400分の1に縮小できるマイクロドット技術がある。他には、イメージファイルの余白部分など、別のデータにメッセージを隠すステガノグラフィー技術があり、ロシア人スパイ団が好んだのはこちらのようだ。FBI(米連邦捜査局)によると、彼らは100枚以上のデジタル写真にテキストを埋め込み、やり取りしていたという。

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