海外の暗号小説
第46話 世界標準の暗号方式開発:三菱電機情報技術総合研究所 松井 充さん H19.11.5
第22話で、「世界標準暗号 三菱電機・松井充氏の活躍」を紹介したが、今回はその続編になろうか。

今日の
読売新聞の夕刊「あの瞬間」に、表題の記事が掲載された。その要旨を紹介する。

松井充氏:
 1985年、京都大学理学部卒。1987年、三菱電機入社。昨年から三菱電機情報技術総合研究所情報セキュリティ技術部長。
 2004年、発明協会全国発明表彰「恩師発明賞」受賞。

暗号解読の研究を初めて2年、成果の出ない日々が続いていた。「もうやめようかな。」頭の中をひらめきが走る。「単純でいいんだ。」
日本やヨーロッパの携帯で採用されている暗号方式開発の端緒をつかんだ瞬間だった。

入社して情報通信の研究所に配属され、CD等からデータを守るプログラムの作成を任された。6人の小所帯で、同僚が暗号方式の開発に取り組んでいた。仕事を手伝ううちに、暗号への興味が増した。

解けない暗号を作る早道は、暗号を解くプロになること。解読の研究を始めてすぐ、大ニュースが飛び込んできた。
90年、イスラエルの研究者が「差分解読法」と言う画期的な暗号解読法を発表した。

暗号方式とは、データを入力すると複雑な処理を経て、意味が通じない「暗合されたデータ」が出てくる箱のようなもの。
暗号を元のデータに戻すには、パスワードが要る。

差分解読法は、「箱」に入力するデータを少しずつ変え、出てきた暗号を比べて共通点を探す。暗号方式のクセを見抜くわけ。
このクセを計算に織り込むと、当時の殆どの暗号方式を解けることが分かった。
すごい方法だ。感嘆する一方で、闘志が沸いた。

「自分でも考えて浮くんじゃないか」研究にのめりこみ、丸2年。ついに「
線形解読法」を考え出す。

線形解読法は、暗号化のクセを確率で予想する方法。例えば、1を入力した時、1か0のどちらかが選ばれてくる箱(暗号方式)があるとする。
このとき、1が出る確率が50%を超えると、1が出やすいくせを持っていることが分かる。こうしたくせを割り出し、計算に織り込む。
この解読法を用い、米国で一般的に使われていた「DES」に挑み、「1万年」かかるはずの解読をわずか2ヶ月で終えた。

この成功を足がかりに、線形解読法でも解けない暗号作りに取り組み、95年に新暗号方式「MISTY」を完成させた。
「MISTY」は研究メンバー5人の頭文字を使ったと言う。
現在のコンピューターでは、数十億年かけても解けない堅固さが自慢。
99年には、携帯用の暗号方式「KASUMI」を作成。
その高い安全性が認められ、2000年、携帯暗号の世界標準に採用され、現在、世界約2億台の携帯電話で使用されている。

視点は、その先を見据える。
未来のコンピューター「量子コンピューター」対策。現在のコンピューターで10億年かかる計算を一瞬でできるマシンが登場すれば、MISTYも簡単に解読される危険性大のため、「解読不可能」な量子暗号作成に着手。

ものつくりに携わる技術者として、これからも大勢の人に我々の暗号方式を使ってもらえたら嬉しい。」

*「暗号方式は目に見えない技術だが、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めている」と語る写真
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