海外の暗号小説
第88話 チャップマン事件・・・美しすぎるスパイ H22.8.26
事件の概要:
旧ソ連国家保安委員会(KGB)対外情報部門の後継機関、対外情報局(SVR)に訓練された11人のスパイが1990年代半ばから米国に送り込まれ、FBIが10年以上にわたり捜査。
米司法省は6月27日(現地時間)、司法長官に届けず米国内で政治活動を行った容疑などで10人を逮捕。ニューヨーク連邦地裁で公判が開かれたが、米露両国がスパイ交換で合意、10人は釈放された。

*2009年、モスクワのSVR本部(通称モスクワセンター)から米国内のスパイに
暗号で送られた極秘指令
≪われわれはあなた方を長期間の任務のため、米国に派遣した。(架空の)学歴、(架空名義の)銀行口座を用意し、自家用車、そして家まで与えている。派遣された諸君全員は、重要な任務を完遂せよ≫
重要な任務:米国名において、国家運営に関与しうる政策集団を特定し、関係を発展させ、モスクワセンターに情報を送信すること。(10年以上の長期間にわたって米国内に住み、人脈を広げて、国家の政策家庭に関与できる人物を協力者に仕立て、情報を収集し政策を誘導すること)

*2010年1月20日、「美しすぎるスパイ:アンナ・チャップマン(28)」は、ニューヨークのタイムズスクエア周辺のカフェにバックをわきに置き腰かけていた。
約10分後、ワンボックスカーが店の前をゆっくりと通り過ぎた。FBIが密かに設置した監視カメラが運転手の男の顔をとらえる。男は表向き在米ロシア領事館の館員だが、実はSVRのスパイだった。
 約2ヶ月後の3月17日、マンハッタンの書店にチャップマンが現われた。10分後、通りの反対側に、同じ領事館員が姿を見せた。チャップマンがバックからパソコンを取り出し、スイッチを入れた。
 直後、FBI捜査官は、チャップマンのパソコンから出たワイヤレスの微弱電波を感知、ついに情報通信の糸口を確認することに成功した。

*FBIの捜査は、チャップマンの「恋人」で、SVRのスパイ、ミハイル・セメンコにも及んでいた。おとり捜査官が6月26日、セメンコの携帯に電話を入れた。会話は事前にFBIが把握していた
合言葉(符牒)で始まった。
 「2004年、北京でお会いしたことはありませんか」
 「はい、たぶんお会いしていると思いますが、それはハルピンのことだったと思います」
身分確認を済ませた捜査官とセメンコはその日の夜、会うことになった。

*午後7時半過ぎ、ワシントン市内の公園で、ベンチに腰掛けるセメンコの隣には、おとり捜査kんが座っていた。
 捜査官は現金5千ドルを包んだ新聞紙と、現金を埋める場所が描かれた地図を差し出した。「明日午前11時から11時30分の感にアーリントン・パークに持って行け」
 セメンコは、「場所は確認したから破棄してくれ」と地図を返した。
 セメンコは翌27日午前11時過ぎ、指定された場所に現われ、そして立ち去った。その後、現場では5千ドル入りの封筒と、それを包んだ新聞紙が押収された。重要証拠である。

*6月下旬、チャップマンが7月上旬にも、ロシアに帰国するとの情報が入った。遺された時間は少ない。FBIは勝負に出た。
 6月26日の昼前、在米ロシア領事館の館員を装った,FBIのおとり捜査官がチャップマンに電話を入れ、二人は午後4時半、マンハッタンのカフェで落ち合った。
 「進捗状況を説明してくれ。今、何をしている」
 「順調よ。ただ、接続に問題があるの」・・・(おとり捜査官は、パソコンの極秘データの送信報告であることに気づく)
 「送信ソフトのトラブルなら、パソコンを領事館員に渡すか、帰国時にモスクワに持ち帰るかだが・・・」
 チャップマンは、パソコンを目の前の"領事館員"に渡した。
 ◎FBIは、スパイの秘密通信に使用されたパソコン本体を入手したのだ!

*二人は翌27日の接触場所を決めて別れたが、彼女は現われなかった。米司法省がスパイ10人を逮捕したのだ。

*チャップマンらは、米国の機密情報を入手するには至らなかったとされるが、ロシア・スパイ網の多様な人材配置とロシアによる豊富な資金投入が浮かび上がる。
 今回のスパイに投入された資金は、数100万ドルに上る可能性を関係者は指摘した。
 「ロシアによる米国家中枢への静かなる浸透は続いている。冷戦並みかそれ以上に真剣だ。」「日本国内でも政権中枢をターゲットにしたロシアのスパイ活動が行われている」と警鐘した。

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