海外の暗号小説
第77話 谷崎潤一郎が探偵小説家? H21.4.30
谷崎潤一郎といえば、一般的にはノーベル文学賞候補にもなった文豪というイメージが強い。
1964年には、日本人では初めて全米芸術院・米国文学芸術アカデミー名誉会員にも選出されている。

勿論それを否定するわけではない。
江戸川乱歩の「悪人志願」に収録されている「日本の誇り得る探偵小説」という随筆を読むと、「日本のポオとも云うべき我が谷崎潤一郎の探偵的作物について」書くとある。

それで少々驚いた次第。
・「新青年」のごとき探偵小説専門雑誌において、バルザックやディケンスまで引っ張り出していながら、一言の潤一郎に及ぶものなきは、日頃僕の不満とするところである。ポオが一面において探偵小説家と言われていいなら、潤一郎のほうも、一面において立派に探偵小説家である。

・潤一郎にしてみれば、探偵作家などと云われるのは迷惑かも知れないが、ポオだってそう云われているのだ。我慢してもらわねばならぬ。

・新聞に連載している「金色の死」:題材が「The domain of ArnheimやLandor's cottare」に酷似している。
・潤一郎の夢の世界はポオのそれに似ている。「魔術師」なんか適例だ。

・潤一郎の探偵的作物は「途上」、「金と銀」、「白昼鬼語」、「私」、「柳湯の事件」、「人面疽」、「ある少年の怖れ」、「呪われた戯曲」などがある。

・「白昼鬼語」には、ポオの暗号がそのまま使ってある。

・「途上」こそ、日本の探偵小説だといって、外国人に誇りえるものではないかと思う。

・我々探偵小説好きの間に妙な偏見がある。専門の探偵作家の書いたものでなければ、例えば文壇の人の作物などは、純文芸であって、探偵小説ではないとして、顧みないことだ、それは、とりもなおさず、探偵小説は低級だと、こちらから極めて了う様なもので、甚だ感心しない。

・要するに、僕は潤一郎の諸作を、日本探偵小説の誇りとしたいのである。

*これは大正14年6月に書かれた随筆であるので、その後もこの感覚でいたのかどうかは分からない。しかし、当時は、乱歩はかなり潤一郎に探偵小説家としての思いが強かったようである。
 潤一郎の昭和以降の作品からすると、如何なものかとは思う。

*これを機会に、乱歩が指摘した作品を探し、潤一郎の探偵小説を楽しむのも面白いとも思う。

本サイトでも谷崎の暗号小説を1冊:「盲目物語」 紹介している。


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